20090314

S-airAWARD報告会 文章


自分では撮影できないので渋谷利彦さんノブログより借用しました。


私は今回セルフプロデュースプログラムでNYに1ヶ月行かせていただきました。
NYについてはベルファストのように知らない方がいらっしゃらないとおもいますので説明を省かせて頂きたいと思います。

今回受け入れてくれた団体はNYをベースとしたInternational Arts Movement、通称IAMというNPO団体です。
IAMは、日系アメリカ人の日本画家であるマコト・フジムラ氏が1990年に創始した団体で、画家、彫刻家、音楽家、舞踏家、詩人、写真家、作家など様々な分野の芸術家やコレクター、キューレター、批評家、ジャーナリストなどアートに関係する人々またそれを支える人々によって構成されています。この団体の特徴は、芸術をギフトとしていかに社会に提示できるかを模索し、また、それをムーブメント化して行くことを目標に様々な試みを行っています。

IAMは基本的にはアート・イン・レジデンスを行っている団体ではありませんが、今回は、この団体が2006年より5年間連続で企画しているIAM ENCOUNTER 2009というカンファレンスの会場でインタラクティブな作品を展開するということをさせていただきました。

NYで何をして来たか、お話しする前に、私のことをご存じない方がほとんどだと思いますので、まずは、今までの作品をかいつまんで説明させて頂きたいと思います。

私は札幌で生まれ育ちました。武蔵野美術大学の油彩科で学士、修士を取得し、その後、東京を起点に活動し、また、2000年からシンガポールに2年半滞在し2002年に札幌に戻ってきました。その後は、「絵画の場合」というグループ展を中心に作品を制作発表しつづけています。

2006年までは、テンペラを用いた作品を制作していましたが、2006年以降、人と関わる作品を試み始め、人に感情を込めた一本の線を描いてもらい、それを作品として行くというものを展開してきました。

これは、シンガポールでの経験を通して得た、「人の持てる表現力」への関心が基盤となっています。
人に感情を込めて線を引いてもらい、それを作品化していくという作業を通して、たった一本の線でも多くのことを表現できることを見出してきました。また、線のワークショップもなんどかおこなっています。

昨年は北大の総合博物館企画の「分子の形」展に参加し、その線の作品をさらに発展させ、紫外線が当たると色が変化するメディウムを用いて、人々に感情を込めて引いた線を身に付けたいようのしたに出てもらうという作品を作成しました。

これが派遣前までの作品です。

派遣されて海外で作品を創るというのが、今回が初めてだったということと、会場の状況や条件が現地に行くまで分からなかったので、今回は現地に行ってから何を創るのか考えようと決め、必要最低限の機材だけを持って旅立ちました。会場は結局下見できないまま当日に突入しましたが、ディレクターとの打ち合わせで、何をやっても良いとの許しが出たので、自分の一番興味のある題材に取り組むことにしました。

今回、NYで制作して来た作品は、線を描くという方法から、「塗る」という動作の痕跡の中に同じようなものを見出すことは出来ないかという密かな思いが一端となって始まりました。

最初は、非常にシンプルに、大きな布にラインプロジェクトと同じように、感情を込めながら「絵の具を塗る」ということ人にしてもらおうと考えていました。近くのアウトレットで購入した枕カバーで色々なサンプルを作り、計画を練り、絵具を塗っているうちに、指を使って塗る方が良いと思い始め、また、そうしているうちに、ベッドに塗ったらおもしろうだろうなという思いへと変化していきました。そこから、どうしてベッドなのか、そして、手で塗るということにはどのような意味合いが含まれているのかということを考えていきました。

何故ベッドなのか?

ベッドは休むところ、心地よいところ、夢を見、新たなエネルギーを得るところ、また逃げ場でもあると思います。これは、自分が今回の派遣で、長期日本を離れる中で、いかに自分に自己防衛機能があり、自己を守ろうとはたらきがあるのかを実感したことと重なります。

「手をよごす」という慣用句は、「悪いこと・好ましくないことを行なう。」という意味もありますが、「自分の身体で実際に体験し、その苦労を味わって物事を行う。」という対照的な意味合いを含んでいる面白いものです。

私たちには新しい力を得るために休む必要がありますが、しかし同時に常に新しい世界を切り開き、創造するために居心地の良い場所から出なくてはなりません。

この、心地の良い居場所の象徴でもあるベッドに手で塗る(手で汚す)という行為は、まさに今回の私の体験であり、また、今のアメリカの現状と重なりました。

オバマ大統領は就任演説の最後の方でこう語っています。
「政府はやれること、やらなければならないことをやるが、詰まるところ、わが国がよって立つのは国民の信念と決意である。堤防が決壊した時、見知らぬ人をも助ける親切心であり、暗黒の時に友人が職を失うのを傍観するより、自らの労働時間を削る無私の心である。我々の運命を最終的に決めるのは、煙に覆われた階段を突進する消防士の勇気であり、子どもを育てる親の意思である。
 我々の挑戦は新しいものかもしれない。我々がそれに立ち向かう手段も新しいものかもしれない。しかし、我々の成功は、誠実や勤勉、勇気、公正、寛容、好奇心、忠誠心、愛国心といった価値観にかかっている。これらは、昔から変わらぬ真実である。これらは、歴史を通じて進歩を遂げるため静かな力となってきた。必要とされるのは、そうした真実に立ち返ることだ。
いま我々に求められているのは、新しい責任の時代に入ることだ。米国民一人ひとりが自分自身と自国、世界に義務を負うことを認識し、その義務をいやいや引き受けるのではなく喜んで機会をとらえることだ。困難な任務に我々のすべてを与えることこそ、心を満たし、我々の個性を示すのだ。
 これが市民の代償であり約束なのだ。これが我々の自信の源なのだ。神が、我々に定かではない運命を形作るよう命じているのだ。」

今回の体験は、一人の人として、そしてアーティストとして本当にとても良い刺激となり経験となりました。そして、次のステップを踏むよい機会となりました。常にどこにいても感性を開いて自己と向き合うということをしなくてはなりませんが、環境が変わることによってそれがさらに開かれるのだということを短期間でしたが、体験することが出来ました。今後はこれを機会に、作品を国内で発展させつつ、機会があるならば、今度はヨーロッパやアジアなどの他の文化圏へのアーティスト・イン・レジデンスにもトライしてみたいと思っています。

今回このような機会を与えてくださったS-air にまた、その関係各位の皆様に心から感謝を申し上げます。
短いですが、私の報告をおえさせていただきます。
ありがとうございました。

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